「まず線分図を描いてみよう」と言っても、鉛筆が動かない。解説の図は写せるのに、新しい問題になるとまた手が止まる。
中学受験の算数で、こんな様子を見て心配になっているママへ。描けない理由を、すぐに「面倒くさがっているから」と決めなくて大丈夫です。
線分図が描けないときは、問題文を短く区切り、その部分が表す量や関係を、一つずつ図にするところから始めます。最初は一緒に描き、その後で子どもに「どう描いたか」を説明してもらう。さらに、手本を見ずに描いて、図と式の意味を確かめます。
大切なのは、きれいな図を完成させることだけではありません。「何を、なぜ、そう描くのか」が本人の言葉になっているかです。
この記事は、主に小4〜小6で、和・差・倍の数量関係を線分図にする学習につまずいているご家庭に向けています。足し算・引き算・掛け算・割り算の意味が前提です。まだ不確かな部分があれば、その部分だけ確かめながら進めます。
19年間、算数・数学を指導してきた僕の基本の進め方は、やって見せる、説明してもらう、実際に描いてもらう、分からない部分をもう一度教えるという繰り返しです。以下では、説明用に用意した例題で、その進め方を具体化します。
線分図が描けないとき、どこで止まっているかを確かめる
「図が描けない」を三つに分けて見る
同じ「描けない」でも、問題文の意味が分からないのか、量の関係が分からないのか、分かっていることを線へ表す方法が分からないのかで、必要な説明は違います。
| 止まる場所 | 問いかけの例 | 次にすること |
|---|---|---|
| 言葉の意味 | 「合わせて」は、誰と誰のお金のこと? | 一文を区切り、場面を説明してもらう |
| 量の関係 | どちらが多い? 300円は合計、それとも差? | 同じ部分と違う部分を確かめる |
| 図への表し方 | この線は誰のお金? 300円はどこに付ける? | 一緒に描き、描いた理由を説明してもらう |
この表は家庭で問いを整理するためのものです。子どもを分類する診断ではありません。一つ答えられたから全部理解したとも、答えられないから能力がないとも判断しません。
一度に全部を読ませ、全部を描かせない
僕は、子どもと一緒に問題文を区切り、区切った部分ごとに線を描いたり、情報を書き込んだりします。分からない部分があれば、そこを説明してから次へ進みます。
その後で、「書き方をもう一回、自分で説明してごらん」と伝えます。大人の描いた線を目で追うだけでなく、本人が考える順番を言葉にするためです。
和と差の線分図:一文ずつ量の関係を描いてみる
例題:合計1,400円、姉は弟より300円多い
以下は、考え方を説明するための例題です。実在の生徒の答案や、成果を再現したものではありません。
姉と弟の所持金は合わせて1,400円です。姉は弟より300円多く持っています。姉と弟は、それぞれ何円持っていますか。
「合わせて1,400円」「姉は弟より300円多い」を、それぞれ図に表します。次の問いは、この例題で使える問いかけの例です。
- 何の量か:「誰のお金を表す線が必要?」と聞き、姉と弟の名前を分けて書く。
- 合計か一人分か:「1,400円は姉だけのお金?」と聞き、二人分の合計と分かるように記す。
- どちらが多いか:「姉は弟より多いんだね。どちらの線を長くする?」と確認する。
- 差はどこか:「弟と同じ部分をそろえたら、姉のどこが300円?」と聞き、余った部分へ300円を書く。
姉と弟を合わせて1,400円
図から式へ:なぜ300円を引き、2で割るのか
姉の多い300円分を二人分の合計から引くと、残りは「弟と同じ量が二つ」です。
1,400−300=1,100円
この1,100円は、弟一人の所持金ではなく、弟と同じ量の二人分です。
1,100÷2=550円
これで弟の所持金が分かります。姉は弟より300円多いので、550+300=850円です。
確かめると、850+550=1,400、850−550=300。合計と差の両方が問題文と一致しています。
式を覚えるだけでなく、「1,100円は何のお金?」「なぜ2で割るの?」まで聞いてみてください。説明できなければ、同じ量が二つ残る場面へ戻ります。
子どもに説明してもらうのは、答えではなく考える順番
答えが550円と850円だと分かっていても、図の描き方を学んだとは限りません。
「最初に何をそろえた?」「300円はどこに描いた?」「合計から300円を引いたら何が残った?」と、図の部分と問題文を結びつけて説明してもらいます。
別の問題に持っていきたいポイントは、多い分を除けば同じ量が二つになること。その理由まで理解すると、数字が変わったときにも考え直す手掛かりになります。
「AはBの3倍」を線分図にするときは、基準を確かめる
100円と200円から「何を1と見るか」を話す
僕は、例えば「僕が100円、あなたが200円持っているとき、あなたのお金は僕の何倍?」というように、子どもが考えやすい数で確かめます。
「2倍」と答えたら、それで終わらず、その2の意味へ進みます。僕のお金を1つ分とすると、あなたのお金は同じ大きさの2つ分ということです。実際のお金を1円と2円に変えるという意味ではありません。
この関係が分かれば、「AはBの3倍」では、Bの量を1つ分、Aの量をその3つ分として描けます。
掛け算を言えても、誰の量を3倍するのかを聞く
AはBの3倍
「倍は掛け算」と覚えていても、AとBを逆に描くことがあります。「どちらを1つ分と見ている?」「3つ分を持っているのはどちら?」と確かめます。
例えばBが200円なら、Aは200×3=600円。反対にAが600円と分かっていてBを求めるなら、600÷3=200円です。同じ3倍の関係でも、求める量によって計算が変わることを、図で確認してください。
図を写す学習から、自分で描く学習へつなぐ
「こなす」と「学ぶ」の違いを、今の本人に結びつける
僕は、図を写すことだけで終わる子には、描き方の前に「こなす」と「学ぶ」の違いを考えてもらいます。
「なぜ学んでいるの?」「こなすだけでは、今、何が困る?」「今日この考え方を学べたら、何がうれしい?」。将来のためという大人の正解を言わせるのではなく、本人が今感じられる意味を探します。
僕が指導してきた中では、遠い将来の話には模範回答ができても、本人の気持ちには届いていないと感じることがあります。だから、まず目の前の学習に結びつけたいのです。将来の目標を持つ子まで否定する話ではありません。
例えば、「次の一問を自分で考えられたらうれしい」「解説を見ても分からない時間を減らしたい」などです。これは答えを押しつけるための模範回答ではなく、本人の言葉を探すための例です。
自分事にすることと、丸投げすることは違う
自己決定理論では、自分の意思で取り組む感覚、できるという感覚、人とのつながりを支える環境が重視されています。理論の概要はSelf-Determination Theoryの公式解説で確認できます。
僕はこの考え方も踏まえて、一緒に描ける支えを残しながら、本人が説明したり、試すことを決めたりする場面をつくります。これは僕の指導への取り入れ方であり、決まった質問で必ずやる気や成績が上がるという話ではありません。
やって見せ、説明してもらい、実際に描いてもらう
- 一緒に描く:短く区切った文を読み、関係する線と情報を一つずつ加える。
- 説明してもらう:何をどこに描いたか、なぜそう描いたかを本人の言葉にする。
- 実際に描いてもらう:手本を閉じ、問題文を読みながら自分で図をつくる。
- 止まった部分を教え直す:分からない言葉、量の関係、描き方のどこへ戻るかを確かめる。
一緒に描けた段階は、支援がある状態です。そこから一人でできる状態へ移るには、手本を閉じたときや条件が変わったときの様子も確かめます。進む速さや手助けの量は、本人の理解に合わせます。
簡単な問題でも線分図は毎回必要?嫌がる子への関わり方
図を描くかは、問題と本人の理解によって判断する
僕は、あまりにも簡単な問題でまで、毎回線分図を描かせるわけではありません。
ただ、難しい問題になったとき、必要な関係を線分図へ表せずに解けないなら、できる問題へ戻り、あえて図を描く練習をします。難しい一問で、描き方も解き方も同時に学ぶ負担を避けるためです。
判断したいのは、描いた図の数ではなく、本人が条件を整理し、解き方の理由を説明できるか。数字を眺めて偶然正解したのか、別の条件でも使える考え方を持っているのかを確かめます。
「描きなさい」の前に、使う技と嫌がる理由を聞く
図を描きたくない子には、「図を描かずにどうやって考える?」「難しくなって解けなかったら、どういう技を使う?」と聞きます。図以外の方法で関係を説明できるなら、その考え方も確かめます。
描けないことを証明するために難問を渡すのではありません。今の方法で困る部分が見えたら、そこを助ける道具として線分図を試すのです。
そして「なぜそれほど嫌なの?」と理由を聞きます。どこから描くか分からない、書く量が多く感じる、間違った図を見られたくない。こうした可能性を大人が決めつけず、本人の答えから対応を考えます。
「面倒くさい」と言われても、性格や意欲の問題にして終わらせません。「一緒に最初の線だけ描こうか」など、取り組める大きさへ調整することもできます。
ママは解説役を全部引き受けなくてよい
家庭では、「どの文から分からなくなった?」「この線は何を表すの?」と聞き、止まった箇所を整理できれば十分な支援になります。ママ自身が分からない場合、無理に説明を作る必要はありません。
一緒に取り組むたびに言い合いになる、説明を読んでも量の関係がつかめない、手本を閉じると毎回同じ箇所で止まる。そんなときは、その文や描きかけの図を先生に見せ、どこから支えてもらうか相談してください。
「図が描けないから全部やり直し」ではなく、今の問題に必要な土台を一つずつ確かめること。家庭で解法まで背負わず、質問をつなぐ任せ上手を目指しましょう。
自力で描けたかを確かめる練習問題
数字を変えた和差算で、図と式の理由を確かめる
同じ問題の答えを覚えたかではなく、考え方を別の問題に使えるかを確認します。次も説明用に用意した練習問題です。
兄と妹の所持金は合わせて1,800円。兄は妹より400円多く持っています。それぞれ何円ですか。
手本を見ずに図を描き、「400円はどこか」「1,800−400で何が残るか」「なぜ2で割るか」を説明してみてください。
答えと確認するポイント
妹:(1,800−400)÷2=700円。兄:700+400=1,100円。合計は1,800円、差は400円です。
合計から多い分を除くと、妹と同じ量が二つ残ることを、図の部分に対応させて説明します。
倍の関係は、聞かれる量も変えてみる
「AはBの3倍。Aが900円のとき、Bはいくら?」も試してください。Aの線は、Bと同じ大きさの三つ分です。したがってBは900÷3=300円。900×3にしてしまったら、誰の量を1つ分としているかへ戻ります。
確かめるのは、次の三つです。
- 問題文の量と関係を、自分で図にできる。
- 図の各部分と式の意味を説明できる。
- 数字や求める量が変わっても、関係を考え直せる。
これはこの範囲の理解を確認する練習であり、線分図を使うすべての受験問題を解けるという判定ではありません。途中で助けた部分があれば、そこを次に学ぶ場所として残してください。
家庭では解けるのにテストで止まる場合は、中学受験の算数が家では解けるのにテストで解けない原因と復習の直し方も参考にしてください。
中学受験の線分図について、よくある質問
定規できれいに描く必要がありますか?
この例題では、量の関係が読み取れることを優先します。比べる線の始まりをそろえ、同じ部分と多い部分を分け、誰の量かと数値を書きます。正確な縮尺で測る図ではありません。学校や塾の課題に指定がある場合は、その条件を確認してください。
完成した線分図を写すのは無駄ですか?
描き方を学ぶ入口として使えます。ただ、写して終わらず、どの文をどの部分へ表したのかを説明し、手本を閉じて試すところまでつなげたいのです。
線分図だけで、算数の文章題は全部解けますか?
いいえ。この記事は和・差・倍の関係を扱っています。問題によって表、面積図、実際の図形などが役に立ちます。図の種類を増やす前に、何の関係を整理したいかを確かめてください。
今日の一歩:一つの文を図にし、描いた理由を話してもらう
次に線分図で手が止まったら、「全部描いて」ではなく、まず一つの文を一緒に確かめてください。
その文を図にできたら、「どう描いたか、もう一回説明してごらん」。できなかった部分は教え直し、次に本人が試せるところをつくります。
こなすために図を増やすのではなく、次の一問を自分で考えるために学ぶ。僕が育てたいのは、描き方を覚えるだけの力ではなく、分からない部分を見つけ、学び直し、自分で確かめる独習力です。
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