「うちの子、数学だけ極端に点数が低いんです」
「勉強しなさいと言っても、全然やろうとしません」
「もしかして、数学の才能がないのでしょうか」
こんな相談を、僕はこれまで何度も受けてきました。
先に結論をお伝えすると、中学生が数学を苦手になる原因は、才能だけではありません。勉強時間の見積もり、問題集の使い方、解説の読み方、復習方法、前の単元の抜け、目標設定、学習環境など、いくつもの原因が重なっていることが多いのです。
この記事では、数学講師・数学コーチとして19年間指導してきた経験をもとに、中学生が数学を苦手になる7つの原因と、立て直すための具体的な5ステップを解説します。
この記事の要点
- 数学の苦手は、才能ではなく学習方法の問題であることが多い
- 最初から全範囲を復習せず、今の単元に必要な基礎だけへ戻る
- 問題集の1周目は「正解するため」ではなく「学ぶため」に使う
- 最終目標は、初見問題にも使える考え方を自分で取り出せる状態
中学生の約半数が「数学は得意ではない」と感じている
数学を苦手に感じているのは、決して一部の中学生だけではありません。
文部科学省・国立教育政策研究所が公表した令和7年度全国学力・学習状況調査では、国語・数学・理科をそれぞれ「得意ではない」と考えている中学生は約5割と報告されています。
つまり、数学が苦手だからといって、すぐに「自分には能力がない」と結論づける必要はありません。大切なのは、苦手という結果だけを見るのではなく、どの段階で学習が止まっているのかを診断することです。
参考:文部科学省「令和7年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)」
中学生が数学を苦手になる7つの原因

原因1.数学に必要な学習時間を見積もれていない
数学では、解説を読むだけでなく、途中式を書き、自力で解き直し、時間を空けてもう一度再現する必要があります。
そのため、本人が「少し勉強した」と思っていても、自力で解ける段階までは届いていないことがあります。
僕自身、大学受験期には1日10〜11時間勉強するうち、約5時間を数学に使っていました。もちろん、すべての中学生に同じ割合が必要だという意味ではありません。ただ、僕の指導経験では、数学は本人が想像している以上に時間がかかる教科です。
原因2.「分かった」で終わり、徹底理解まで進んでいない
解説を読んで「なるほど」と思うことと、何も見ずに自分で解けることは別です。
さらに、自分で解けることと、少し形を変えた初見問題に応用できることも違います。
数学で必要なのは、解説の言葉を追って終わる理解ではありません。「なぜこの式を立てるのか」「なぜこの順番なのか」「別の方法ではいけないのか」まで掘り下げる徹底理解です。
原因3.一問から応用可能なポイントを抽出していない
たくさん問題を解いているのに、初見問題になると手が止まる生徒がいます。
その理由の一つは、問題ごとの答えや手順だけを覚え、別の問題にも使える考え方を取り出していないことです。
例えば「この問題ではこの公式を使った」で終わるのではなく、次のように考えます。
- 問題文のどの条件を見て、この解法を選んだのか
- この解法が成立する理由は何か
- 数字や図が変わっても使える部分はどこか
- 次にどんな言葉や条件を見たら、この考え方を思い出すべきか
これが、一問を一問のまま終わらせない勉強です。
原因4.問題集の1周目から「解けなければダメ」と考えている
僕は、問題集の1周目は解くためではなく、学ぶためにあると考えています。
まだ習得していない内容を最初から全部解ける必要はありません。解けなかったら、解説から新しい知識や考え方を学べばよいのです。
ところが、1周目から正解数だけを気にすると、分からない問題を避けたり、答えを写して終わったりします。これでは問題集を「自分のできなさを確認する道具」にしてしまいます。
解けなかった問題こそ、レベルアップの材料です。
原因5.復習が「答えの暗記」になっている
同じ問題の答えだけを覚えても、数字や条件が変われば解けません。
復習で確かめたいのは、答えではなく次の3点です。
- 解法のポイントを自分の言葉で説明できるか
- なぜそのポイントが有効なのか説明できるか
- どんな問題で使う考え方なのか判断できるか
解答例から原理や条件を取り出す学び方は、学習研究でいう「自己説明」とも重なる部分があります。ただし、自己説明なら何でも効果が出るわけではありません。誤った説明を自分で作る可能性もあるため、正しい解説や指導者の確認と組み合わせることが重要です。
参考:Rittle-Johnsonほか「数学学習における自己説明のメタ分析」、Barbieriほか「数学における解答例効果のメタ分析」
原因6.必要な基礎が抜けているのに、現在の単元だけを繰り返している
数学は、以前に学んだ知識を使って次の内容を理解する教科です。
方程式でつまずいていても、本当の原因が分数計算や文字式にあることがあります。関数が苦手でも、比例や座標、方程式の理解が抜けている場合があります。
ただし、中学数学を最初から全部やり直せばよいわけでもありません。時間が足りなくなり、今の授業からさらに離れてしまうことがあるからです。
今の学習を進めながら、その単元に必要な土台だけへ戻る。これが現実的な戻り学習です。
原因7.勉強する意味と学習環境が整っていない
「将来のために勉強しなさい」と言われても、多くの中学生にとって将来は遠すぎます。
大切なのは、達成方法はまだ分からなくても「今の自分の延長線上にはないけれど、こんな自分になりたい」と思えるゴールです。
それは進学や職業だけとは限りません。部活動でも、人間関係でも、自信を持って行動できる自分でも構いません。数学を学ぶことを通して、考える力や粘り強さを伸ばし、そのゴールへ近づく。勉強を目的ではなく手段として位置づけます。
同時に、スマートフォンやゲームがいつでも使える環境では、集中することが難しくなります。本人の意志の弱さだけにせず、家庭で環境を整える必要があります。
数学のつまずきを見つける診断方法
僕が生徒の状態を見るときは、基礎・標準・応用の問題を解いてもらい、答えだけでなく途中式を書かせます。
見るポイントは次のとおりです。
| 答案の状態 | 考えられる課題 |
|---|---|
| ほとんど空白 | 必要な知識が入っていない、または最初の一手が分からない |
| 計算途中で止まる | 計算技能や前提単元に抜けがある |
| 答えは合うが途中式を書けない | 考えを言葉や式で表す力に課題がある |
| 基礎は解けるが標準問題で止まる | 知識を組み合わせる方法が分からない |
| 似た問題だけ解ける | 解法の条件や応用可能なポイントを抽出できていない |
一問の正誤だけで判断しません。どこまで考えられたのか、何を書けなかったのかを見ることで、「知識」「理解」「計算」「表現」「応用」のどこで止まっているかを探します。
中学生の数学の苦手を克服する5ステップ

ここからは、僕が指導で使っている5ステップを紹介します。
ステップ1.解説を徹底理解する
まずは解説を読みます。ただ眺めるのではなく、途中式の意味、解法を選んだ理由、計算のつながりまで確認します。
分からない言葉や式が一つでもあれば、そのままにしません。必要なら前の単元へ戻ります。
ステップ2.解答にたどり着くためのポイントを抽出する
「何が分かっていたら、この解答を作れたのか」を考えます。
公式だけでなく、問題文の読み取り方、図の描き方、条件の整理方法、式を立てる判断などを取り出します。
ステップ3.なぜそのポイントでうまくいくのか分析する
手順を丸暗記せず、理由を確認します。
「なぜこの式になるのか」「なぜこの順番で考えるのか」を説明できれば、問題の形が変わっても対応しやすくなります。
ステップ4.どんなときにその考え方を思いつくべきか特定する
知識を持っているだけでは、初見問題で使えません。
問題文のどの表現、どの条件、どの図形を見たら、その考え方を思い出すべきなのかを決めます。これは、知識に「呼び出し条件」を付ける作業です。
ステップ5.復習して、自力で再現する
解説を閉じて、もう一度最初から解きます。時間を空けた後にも解き、別の類題でも同じ考え方を使えるか確認します。
正解したかだけではなく、5ステップを自分の言葉で説明できるかを確認してください。
約1か月で30点から70点になった中学3年生の事例
以前、中学3年生で、数学が30点前後だった生徒を指導したことがあります。
本人も「勉強しなければ」とは思っていました。しかし、勉強は面倒で、ほとんど学習しないままテストを受けていました。少し勉強しても点数につながらず、「やってもできない」という感覚も強くなっていたのだと思います。
原因は、単なるやる気不足ではありませんでした。
- 数学に必要な学習時間を理解していなかった
- 正しい勉強法と復習法を知らなかった
- 一問から応用可能な考え方を抽出していなかった
そこで、週1回程度の指導で、僕が一問ごとに質問を重ねました。
「なぜこの式にしたの?」
「この問題から、次にも使えることは何?」
「どんな条件を見たら、この考え方を思い出せる?」
問題数を増やすより、一つの問題を深く学ぶ方法へ変えたのです。その結果、中間テストでは約1か月で30点前後から70点を取ることができました。
もちろん、すべての生徒が同じ期間で同じように伸びるわけではありません。元の理解度、学校のテスト、家庭学習時間によって結果は変わります。
なお、通知表で数学が5になった事例もありますが、これは別の生徒です。実績を混ぜず、それぞれ別の事例としてお伝えしておきます。
「解けた」だけを成功体験にしない
数学が苦手な子には、小さな成功体験が必要です。
ただし、成功体験を「正解できた」に限定しないでください。
- 解説の意味が分かった
- 昨日分からなかった式がつながった
- 自分のつまずきを言葉にできた
- 新しい考え方を一つ手に入れた
これらも立派な前進です。
「まだ解けていないけれど、昨日より頭の中に使える道具が増えた」と感じられると、学ぶこと自体から達成感を得られます。正解までの途中にある成長を、自分で認識できるようにするのです。
数学が苦手な子に親ができること
勉強を直接教えるより、任せ上手になる
僕は、親御さんが無理に数学を教える必要はないと考えています。
親からの言葉は、先生や塾講師からの言葉よりも、子どもの心へ強く届きます。だからこそ、同じ内容でも「責められた」「自分を否定された」と受け取り、反抗や意欲低下につながることがあります。
「どうして勉強しないの」「この点数で大丈夫なの」と繰り返すより、次の一言で十分です。
「困ったことがあったら言いなさい」
そして、助けを求めてきたときに一緒に方法を考える。親子関係を守りながら、必要なところで支えるのが基本です。
スマホのルールは、先に親子で決める
勉強内容は任せても、スマートフォンやゲームを含む学習環境は大人が整える必要があります。
いきなり感情的に取り上げるのではなく、最初に親子で次のようなルールを話し合います。
- 勉強中は別の部屋に置く
- 使う時間と場所を決める
- 夜はリビングで保管する
- 約束を守れなかった場合の対応を事前に決める
ルールを決めた後は、その日の気分で曖昧にせず、毅然と運用します。こども家庭庁や政府広報も、保護者が一方的に押し付けるのではなく、子どもと利用目的・場所・時間帯を話し合ってルールを決めることを勧めています。
参考:こども家庭庁「ネット・スマホ活用世代の保護者が知っておきたいポイント」、政府広報オンライン「ネットの危険からこどもを守るために」
環境を整えても、集中困難や生活上の問題が続く場合は、本人を怠け者と決めつけないことも大切です。学校の先生、スクールカウンセラーなど、身近な相談先から状況を共有してください。
よくある質問
数学が苦手な中学生は、小学校算数から全部やり直すべきですか?
全部を最初からやり直す必要はありません。現在の単元を診断し、その理解に必要な分数、割合、比例など、関係する部分だけへ戻る方が現実的です。
問題集は何周すればよいですか?
回数だけでは決まりません。1周目で解説を徹底理解し、ポイントと理由、使用条件を抽出します。その後、解説なしで再現でき、別の類題にも使えるまで復習します。
親が数学を教えられない場合はどうすればよいですか?
無理に教えなくて大丈夫です。途中式や答案を見て困っている場所を一緒に確認し、必要なら学校や専門家へ質問できる状態を作ってください。
数学の才能がない子でも克服できますか?
苦手の原因が学習方法や前提知識にある場合は、改善できる可能性があります。ただし、必要な期間や変化の幅には個人差があります。まずは「才能がない」と決めつけず、つまずき方を診断してください。
まとめ:数学の苦手は、原因を分解すれば立て直せる
中学生の数学が苦手になる原因は、一つではありません。
- 必要な学習時間を見積もれていない
- 徹底理解まで進んでいない
- 応用可能なポイントを抽出していない
- 問題集の1周目の目的を誤解している
- 復習が答えの暗記になっている
- 必要な基礎が抜けている
- ゴールと学習環境が整っていない
大切なのは、問題を大量に解かせることでも、親が横について監視することでもありません。
自分はどこで止まっているのか。何を理解すれば解けるのか。どんなときにその考え方を使うのか。
これらを自分で判断できるようになったとき、子どもは「教えてもらわないと解けない状態」から「自分で学び直せる状態」へ進みます。
数学の苦手克服は、点数を上げるためだけではありません。これから先も使える、学び方そのものを身につける機会なのです。
※この記事で紹介した「7つの原因」と「5ステップ」は、筆者の指導経験をもとに整理した実践上の枠組みです。すべての生徒へ同じ結果を保証するものではありません。学習や生活上の困難が強い場合は、学校や適切な専門機関へご相談ください。

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